世界最初の舌側矯正治療システムは、1980年前後より日本とアメリカの矯正医により開発されました。開発当初は表側からの矯正治療と比べて、患者さんの苦痛も大きく、治療期間は長くかかり、矯正後の仕上がり結果の評価も低いものでした。
その後長い時間をかけて、多くの矯正専門医や技工士の研究努力と、ワイヤーの弾性性能の進化等により、舌側からの矯正でも表側からの矯正と治療結果、治療期間ともに同等のクオリティで治療できる矯正専門医が現れてきました。
しかしながら、患者さんの立場からみると発音障害や、装置の違和感、痛みなどの問題点は完全に解消されたわけではなく、矯正専門医の立場からしても、歯の位置の最終調整の難しさなど多くの問題点が残されていました。
このような舌側矯正の欠点をふまえて、Dr. Wiechmannは、インコグニート Incognito システムの開発にあたり、従来の舌側矯正と比べて、以下の点を改善しています。
- 患者さんの舌側装置による違和感、痛み、発音障害が軽減されています。
インコグニート Incognito の装置は、虫歯を治した後に装着する、金属やポーセレンのクラウンのように、各患者さんの歯にオーダーメイドされた装置です。
いままでの既製の装置とは全く異なり、患者さんの口腔内の違和感が極力少なくなるように限界までで薄く作られています。また、表面形状も金属クラウンのようにしっかりとy磨が施されて滑らかに仕上げられていますので、口内炎の発現や舌への違和感などが極めてすくなくなります。
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鋳造後 |
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荒研磨後 |
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最終ポリッシング後 |
左から、鋳造後、荒研磨、最終研磨の状態です。出来上がりは、つるつるの状態ですので、舌で触ってもチクチクしたりザラザラしたりすることは一切ありません。 |
下の図は従来の舌側矯正のブラケット(歯に接着してワイヤーを入れる器具)との厚みの比較です。歯の舌側面は、それぞれの歯の厚みに違いがあるため、唇側をきれいに並べるためにワイヤーを屈曲するか、ブラケットの厚みを調整して補正する必要がありました。
具体的にはワイヤーの形状をキノコ型(マッシュルーム型)にして調整するか、ブラケットの接着面と歯の間に樹脂をはさみこんで補正する方法をとっていました。
しかし、この補正操作により舌側装置はバルキー(がさばって場所をとること)になり、これが舌に口内炎を発生させたり、舌の動きに影響して発音が不明瞭になる原因とされていました。
この点をふまえてインコグニート Incognito システムでは可能なかぎりブラケットベースを薄くして作製されており、結果として、矯正装置の異物感がなく口腔内が狭くならない 発音障害がおきにくい ストレスがないという患者さんの負担軽減がなされています。
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従来型の装置 |
インコグニート Incognito |
インコグニート Incognito は従来のものに比べて、ブラケットの厚みが極力薄く、違和感にないように作成されています。 |
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青のラインはインコグニート Incognito のワイヤーの位置になります。
赤、黄色は従来の矯正装置のワイヤー位置です。インコグニート Incognito では特に前歯の領域で、舌の動く場所が狭くならないように設計されています。 |
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- コンピューター3Dスキャン技術により、ブラケット(歯に接着してワイヤーを入れる器具)の位置決めが正確になり、歯は短期間に正確な位置に並んでゆく。
舌側矯正では、歯にブラケットを付ける位置にエラーがあると、唇側矯正に比べて歯の並ぶ位置は5倍以上のエラーとなって発現する特性があります。
このことからも、舌側矯正ではブラケットの正確な位置決めが極めて重要なポイントになります。
インコグニート Incognito システムでは、患者さんの歯型を3Dスキャンコンピューターにより精密に計測するため、ブラケットを歯につける位置に誤差がなくなり、歯は短期間のうちに正確に計画した位置に並んでいきます。
結果として無駄無く正確に目標の歯列形状をつくることができるため治療期間の短縮につながっています。
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左右は唇側および舌側の赤い点を中心にして、歯を7度反時計周りに回転させた図です。
舌側から7度回転すると歯の先端は唇側から回転した場合の5倍移動します。舌側から歯を正確にコントロールするには、ブラケットの位置の正確さが不可欠です。 |

治療中の実際の歯列 |

予測模型(セットアップモデル) |

治療中の実際の歯列 |

予測模型(セットアップモデル) |
ブラケットの位置決めと、ワイヤー形態が正確にできているため、予測模型(セットアップモデル)と実際の歯列が、ほとんど同じ状態で並んできます。 |
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コンピューターにより、模型は3Dスキャンされて理想的な位置にブラケットが配置されてゆきます。 |
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- 再現性のある精密なワイヤーにより歯を正確に移動できる。
舌側矯正では、矯正医にとってワイヤー屈曲は技術と経験のいる作業でした。歯の裏側の歯面に沿ったワイヤーの形態は複雑なため、矯正医によるワイヤー作製(曲げる時間、治療時間)に長時間が費やされました。
また、人の手によるもののため、異なるワイヤーで同じ形状のワイヤーをつくる再現性には限界があり、ワイヤー交換のたびに、歯に不必要な動きが生じて、歯にも負担がかかり治療進行が遅くなる原因にもなっていました。
インコグニート Incognito のシステムでは、コンピューターが患者さんの歯型の模型を3次元的に解析して(3Dスキャン)その位置情報から、ロボットがワイヤーを作製しています。
ロボットが作製するワイヤー形状は、太さの異なる最初のワイヤーから最後のワイヤーまで全く同じ形状でコピーして屈曲されており、誤差は極めて小さく正確に形態が再現されています。
ロボットがコンピューターの情報から正確にワイヤーを屈曲してゆきます。歯をむだな動きなく理想的な位置に並べてゆきます。
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- 理想的な前歯の傾斜バランスを作れる。
前歯の前後的傾斜は、矯正用語でトルクと呼ばれており、患者さんのバランス良いプロファイル(横顔)と深い関係があります。つまり前歯の前後的傾斜度は、患者さんの口元の審美性に大きな影響を与えるのです。
前歯の前方傾斜度が強ければ出っ歯の傾向になりますし、後方傾斜度が強いと口元は後退しすぎる感じに見えます。適正な前歯部の傾斜度は、きれいな横顔をつくるキーなのです。
インコグニート Incognito システムは、前歯の前後的傾斜度を正確にコントロールすることが可能で、使用するワイヤーには、それぞれの患者さんにとっての理想的な前歯の傾斜度を与える情報が計算されて作製されています。
ブラケットの縦の溝に断面が長方形のワイヤーがしっかりはまり込むため、正確な歯の前後傾斜のコントロールが可能です。
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- 虫歯になるリスクの低下。
舌側矯正治療中の虫歯のリスクについて、多くの患者さんから質問を受けます。
舌側矯正は見えない部分に装置がついているために、歯磨きが十分にいきとどかないで虫歯になりやすいのでは?ということです。
ドイツのハノーバー大学の研究機関より、唇側の矯正装置をつけた患者さんと、インコグニート Incognito を装着した患者さんとの間で、虫歯の罹患率の差を調査した報告があります。
調査結果では、インコグニート Incognito で治療した患者さんの虫歯発生率は、唇側の矯正装置で治療した患者さんの、約1/5という結果でした。
つまり、インコグニート Incognito 治療は、唇側の矯正治療に比べて虫歯になりにくいという事が結論です。理由を考察してみますと、
- インコグニート Incognito のブラケットベースと歯との境界部が、スムーズに移行しているため、プラーク(歯につく汚れ)が付着しづらいこと。
- 舌側歯面をカバーする面積が大きいため、汚れから歯面保護されていること。
- 舌側は、唾液による自浄作用が活発なため、汚れが着きにくい。
などが考えられています。このことからDr. Wiechmann は、インコグニート Incognito での治療を、虫歯罹患率の高い、若年者(小学生、中学生の年齢層)にも積極的に行っています。
矯正装置は、歯ブラシがわるいと装置の周りに虫歯ができるリスクがあります。インコグニート Incognito システムは、そのリスクを1/5に減少させます。
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- 装置が壊れにくい。
インコグニート Incognito のブラケットベース面は、従来型の舌側矯正ブラケットに比べて大きいため、接着面積が大きくなるため歯への接着力は強くなります。治療中にブラケットがはずれますと
- ブラケットのはずれた歯は移動しなくなり治療進行が遅れる。
- はずれた箇所の装置が動いて舌にあたり、口内炎などの痛みがでることがある。
などの不具合が生じますので、この点でも有利になります。
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- インコグニート Incognito の作製時間は5週間ほどかかる。
インコグニート Incognito の作製は、現在ドイツのバドエッセンの工場で行なわれています。日本から、採取した患者さんの模型をドイツに送り、インコグニート Incognito を作製した後に日本に送り戻されます。
このため、患者さんの歯型とかみ合せの記録をとってから装置のセットまでは、約5週間のお時間を頂く事になります。準備から装着まで時間がかかるのが少ない欠点です。
※「インコグニト・incognito」は3M unitek社の提供する舌側矯正治療システムですが、薬機法対象外となる”海外カスタムメイド矯正装置完成物”にあたるため、医薬品副作用被害救済制度の対象外の場合があります。
※平成29年医療法等の一部改正、平成25年薬機法公布(旧薬事法)に基づく日本矯正歯科学会の方針にしたがい、カスタムメイド矯正装置完成物、ならびに商品名の記載等について修正をおこなっています。日本矯正歯科学会の認定医ならびに臨床指導医は、日本矯正歯科学会の倫理規定に準拠する義務を負っています。